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2007年03月27日

ある役者が存在していた証

かねてから安倍が「ファン」と公言してきた、役者・向井新悟さんが今年の1月に亡くなりました。
第一報を受けたときには、信じられないというか、絶対にあり得ない、誤報だと何故かすぐに思いました。

ずっとファンだと言ってきたために、いろいろと情報をいただきましたが、
その度に「ああ、ほんとうにあの役者・向井新悟は逝ってしまったのだな」と実感も増していきました。

今日はいつもの安倍節を封印し、役者・向井新悟について語りたいと思います。


向井さんの映画出演作は決して多くはないですし、ほとんどがピンク映画でして、なかなか彼の演技を目にする機会はないのですが、
『団地の奥さん、同窓会へ行く』の新吾役(同名だけれど脚本の小林氏によるアテ書きだったのかな?)は白眉。
私個人は主演した『青空』より、向井さんのいい表情がいっぱい撮れていると思いました。
数シーンだけれど強烈な印象を残す『したがる兄嫁』も良かったなぁ。
『手錠』は、以前にもここで記したけれど、映画として最高傑作! 


台詞回しは決して「うまい!」というわけではないけれど、それを超えるイイ存在感がある役者でした。
最初に彼の姿をスクリーンで見たときに、「この人の20年後が楽しみだな」と考えたものです。



先日、とあるご縁で、向井さんの追悼上映会に行きました。
そこで堀江慶監督が日芸の学生時代に撮った『8.15』とサトウトシキ監督『青空』を観てきたわけですが…。

どちらも2000年の作品。
向井さん23、4歳の姿を収めたものです。

両監督の演出の素晴らしさと相俟って、向井さんの存在感はさらに輝きを増していました。
やっぱスクリーンで観るのはいいわー。
『8.15』は初見、『青空』は5回目ぐらいなのだけれど、あらためて向井新悟という役者の放つ存在感の眩しさを感じました。


『8.15』は、今、最も期待されている若手監督のひとり、堀江慶の主演&演出。
向井さんの他、「ウィンパティオ」こと小日向文世さんなんかも出ています。

いやー、堀江監督って人は才能あるねー、やっぱ。
学生時代にこんなん作ってしまっていたのね。

いろいろと解釈可能な作品ですが、端的に言えば
母というリンクを失った父と息子の微妙な心の綾を、「8.15」という特別な日に載せて、実にうまく料理したものでした。
うまい、というのは「巧い」ではなく「美味い」のほうが的確な表現かも。
若者の持つみずみずしい感性と堀江監督独特の世界を捉えるまなざしが、いい感じで融合していたと思います。
何もかもが自分とは無意味だと感じていた主人公の高校生が、向井さんら、その場その場を全力で生きる(本人は自覚がないけれど)青年たちに出会い、
心が少しだけ、動く――。
これだけ書けば、ちっちゃい映画だと思われるかもしれませんが、
役者たちの確かな演技とダイナミックな演出のおかげで、心が動くことがどれほと主人公にとって特別なことかが伝わるものですから、
映画が終わったあとのカタルシスはなんとも深いものとなり…。
そしてこれだけの特別な才能を見せる映画のなかでも、
きちんと「役者・向井新悟」の存在感を出せる向井さんは素晴らしいなと、あらためて思ったものです。


そして、いよいよ向井さん主演の『青空』。
サトウトシキ監督・小林政広脚本、といえば、この映画の贅沢さがわかる方にはわかることでしょう。
ちなみに、私にピンク映画の面白さを開眼させてくれた『団地の奥さん、同窓会へ行く』もこのコンビの作品。
この作品の向井さんは必見! 
もちろん、向井さんのみならず他の役者さんも最高の演技を見せてくれますし、
なんといっても演出・脚本ともに、一言「面白いッ! 最高!!」なのです。


話がそれましたが『青空』は、ピンク映画というよりは、「青春映画」と表記したほうが相応しいものです。
濡れ場ももちろんあるけれど、それは作った感じのセックスシーンではなく、誰にでもある青春の一ページとして描かれています。
主人公の青春の蹉跌、と呼ぶにはあまりにも大きすぎる、「どう表現したらいいのか自分でもわからないまま」に犯してしまう、若さゆえの罪、
そちらのほうに重きが置かれています。
もう何度も観ていたものの、35mmフィルムで観るのははじめて。
やっぱりサトウ監督の映画はスクリーンで観るべきですな。

向井さんがアパートを飛び出し、ひたすら、走る! 走る! 走る!!
あのシーンは、ただただ走る姿をじっくり撮っている(この長廻しは凄いぞ!)だけで、
焦燥から解放され「無」に至る主人公・順一の心がドスンと伝わってきます。
なぜ、あんなに長く撮る必要があったか――
それは、この作品に一貫する主人公の状況が、まさにあの逃走で感じた
“焦燥から解放されて無に至る”というものであり、それが作品のテーマに直結しているからなんですね。
ああ、これが観客の無意識下に植えられていたからこそ、
あのラストの青空が無性に心にしみるのかと、今回はじめて分かりました。
サトウ監督の映画というものを知り尽くした演出には脱帽です。

今回の追悼会で、『青空』は脚本を担当した小林政広氏が、
向井さんを主演にアテ書きしたものだと知りました。
あの、カンヌ出品作『バッシング』や傑作『フリック』を撮った小林氏がアテ書き!!
それだけの魅力のある役者なんですね。

その期待に向井さんは主人公・順一を自分のものにして応えていました。
ぶっきらぼうに呟くようなモノローグも、あの作品には相応しかったですし、
人混みを幽鬼のようにさまよう様子(海辺や駅など)は、何も語らずとも、彼の存在が彼の心のうちをすべて語るのです。
ラストのモノローグ
「いつかシャバに出られたら、今度こそまっとうな暮らしをね…。結婚して、子ども作って、田舎でひっそり暮らしたいなあって…思うわけですよ」
には、叶わぬ主人公の思いと向井さん御本人とが重なって、思わず号泣。

いい映画です。
こんないい映画を遺してくれた向井さんに感謝したいです。



向井さんは日本から遠く離れたコロンビアという地で亡くなりました。
スペイン語をマスターすべく、2006年に日本を旅立ち、語学学校へ通っていたのだそうです。
それは、ハリウッドではなくスペイン語圏の映画界への進出を考えてのことだったと聞きました。
自らの可能性を広げるべく、あえて危険も伴う地を選んだ向井さんの「役者の血」が、
結果として若くして命を奪ってしまったのは残念でなりませんが、
向井さんは「役者・向井新悟」を最後まで追求し続けていました。

このまま生きていれば、きっと国際的個性派俳優として、
「向井新悟」の名は広まっていたことでしょう。
残念でなりませんが、向井さんの肉体はこの世には存在しません。
ですが、彼の可能性の芽を詰め込んだ宝物が遺され、私たちはいつでもその存在に触れることができます。

どうか「向井新悟」という役者の存在を感じてください。
生まれ変わった彼が、今度こそ夢を叶えてくれることを、御冥福とともに心から祈りたいと思います。

posted by まりあ at 20:49| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント

向井さんは僕の兄の同級生で、僕の小学・中学とずっとクラスメートだった娘のお兄さんです。

顔は知らないのですが、妹は綺麗だったので、格好良かったのでしょうね。

向井兄と言えば、初恋相手の兄、不良という情報しかなかったのですが、彼が亡き後に俳優をしていた事、海外で亡くなっていた事をあなたのブログを読み知りました。

僕の妹は舞台役者なのですが、先輩に同じく役者だった人がいた事を教えてあげたいですね。

ちなみに、小学・中学のもっと先輩には玉置浩二さんがいます。

では、失礼致しました。


Posted by 達磨 at 2012年05月21日 18:36
一ヶ月ほど前に青空という作品を知り、そこから向井新悟さんを知りました。彼の生い立ちや生き様を知りたくて、でも既に亡くなっていて、なんとも言えない気持ちになりました。出てくる情報も少なくて。
一ヶ月ぶりに検索してみて、このブログにたどり着きました。
すごく魅力のある俳優さんですね。生きていらっしゃる間に、ファンである事をお伝えしたかったです。
Posted by at 2016年04月15日 00:49
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